WORKS

■「NYU sagotani」

 

広島県広島市

2021.05竣工

用途:シェアキッチン・地域交流スペース

Logo design & Direction:UMA design farm

 

「NYU sagotani」は、阿弥陀山をはじめ、悠大な山々がつくりだす豊かな自然環境と温泉資源に囲まれた広島県湯来町砂谷地区にある牧場「久保アグリファーム」内にある。

このプロジェクトは、少子化高齢化はもとより、若い人材の地元離れや地域独自の知恵や文化の消失に歯止めを掛けるべく、砂谷地区住民が一丸となって、人から人へ文化が継承されていく「本来あるべきまちの姿」を模索したことがきっかけとなっている。

本計画では、地区の住民が主役となり、土地に根差した様々な知恵や経験を伝えるために「シェアキッチン」の機能を有した交流を促すスペースに生まれ変わらせた。ここで発信される活動は、地元の子供会や冠婚葬祭のみならず、将来的に砂谷地区の枠を超えた広がりを生み出し、新たな人や産業のネットワークを創り出すことを展望している。対象とした既存建物は砂谷地区の地域資源のひとつとも呼べる牧場「久保アグリファーム」の敷地内に佇む、創業者が生前住み暮らした建屋を設定し、リノベーションの痕跡にその場所にしかない記憶を編み込むことを試みた。

シェアキッチンの要となる大きなキッチンカウンターは、周囲に広がる風景と対峙する位置に配置し、大判のSUS HLを用いた天板には外部の風景が鈍く反射し内部へ引き込まれる。さらに土間や開口部を拡張することで、限りなく外部に近い環境の内部空間に転換させた。建屋の外からもよく見えるようになり、多くの来訪者との交信が自然に生まれることを目指している。他にも、地域の特産物の販売や本や作品を集積・展示するための「格子棚」や牧草地を見渡せる位置に配置した9mの長さの「交流ベンチ」は、これから使い込まれるであろう様々な活動やアイデアを許容し、砂谷地区に新たな人の出会いを生み出す、まさに「NYU=NEW」な空間装置となる。

土間に残した乳缶の口環の跡や波板鉄板など、牧場で使われている素材を丁寧に空間素材として昇華させることで、新しくも懐かしい風景の一部となる建築を目指している。

 

Photo by うえのゆり